
「自分はただ、一生懸命に説明していただけなのに、なぜか相手が怯えてしまった」 「怒っているわけではないのに、『落ち着いてください』となだめられた」
日本で生活したり働いたりしているナイジェリア出身の皆さんは、そんな経験をしたことがありませんか?
私の教え子の中にも、非常に優秀で情熱的なナイジェリア人学生が何人もいます。彼らは皆、自分の意見をはっきりと持ち、それを伝えることを「誠実さ」だと考えています。しかし、その情熱が強ければ強いほど、日本人の同僚や上司から「怖い」「攻撃的だ」という誤解を受けてしまうことが少なくありません。
これは決して、あなたの性格が悪いからでも、日本人が臆病だからでもありません。実は、ナイジェリアと日本という、全く異なる「コミュニケーションのOS」が衝突しているだけなのです。
ナイジェリア流の「誠実さ(Confidence)」は、力強い声と揺るぎない態度で表現されます。一方で、日本流の「誠実さ(Modesty)」は、控えめな声と相手への配慮(謙虚さ)で表現されます。
この記事では、あなたの持つ素晴らしいパワーや熱意を損なうことなく、日本という環境で正しく「信頼」として受け取ってもらうための、具体的な「ボリューム調整術」をお伝えします。
あなたの熱意を、日本で正しく機能する「武器」に変えるためのステップを一緒に見ていきましょう!
まず知っておいてほしいのは、日本人の多くは「大きな声」を、緊急事態や感情の爆発(特に怒り)と結びつけて学習しているということです。
ナイジェリアの文化(特にラゴスのようなエネルギッシュな都市部)では、高いエネルギーで話すことは「やる気がある」「嘘をついていない」「自信がある」というポジティブなサインです。これをコミュニケーションの「覚醒レベル(Arousal level)」と呼びます。
しかし、日本の社会では、この覚醒レベルを低く保つことが「理性的である」「プロフェッショナルである」と見なされます。
| 項目 | ナイジェリア流 | 日本流 |
|---|---|---|
| 声の大きさ | 大きい(嘘がない、エネルギーの証拠) | 控えめ(冷静、相手への配慮) |
| アイコンタクト | 強く見つめる(自信、真剣さ) | 適度に外す(謙虚さ、相手への敬意) |
| 身振り手振り | ダイナミック(情熱的、説得力) | 最小限(冷静、抑制された美学) |
| 沈黙への対応 | 言葉で埋める(沈黙は不安・退屈) | 沈黙で考える(沈黙は熟考・調和) |
声の大きさは、目に見えない「心理的な距離感」に直結します。 ナイジェリアでの「適切な声の大きさ」は、日本人にとっては、自分のパーソナルスペース(自分だけの安全な領域)を土足で踏み荒らされるような感覚に近いのです。
あなたが真剣に、正当な主張をしようとすればするほど、日本人は「この人は力ずくで自分を従わせようとしている」と感じ、防御反応として心を閉ざしてしまいます。
ここで、実際にあった2つの例を見てみましょう。
【ケース1:会議での主張】 IT企業で働くナイジェリア人のAさんは、プロジェクトの遅延について、自分のチームに非がないことを上司に説明しようとしました。彼は熱意を伝えるために、椅子から立ち上がり、身振り手振りを交えて大きな声で語りました。 結果: 上司は何も言えなくなり、同僚たちは下を向いてしまいました。後日、上司から「あんなに怒鳴らなくてもいいじゃないか」と注意され、Aさんはショックを受けました。
【ケース2:コンビニでの確認】 学生のBさんは、コンビニで支払った金額とお釣りが合わないことに気づきました。真剣にその間違いを指摘しようと、店員に歩み寄り、強いトーンで「これは違います!」と言いました。 結果: 店員はパニックになり、Bさんの形相に恐怖を感じて、奥に隠れて警察を呼ぼうとしてしまいました。Bさんはただ、間違いを直してほしかっただけなのに。
これらのケースに共通するのは、「本人の意図(正当な主張)」と「表現方法(大声・強い態度)」が、日本というフィルターを通した時に「暴力性」に変換されてしまったという点です。
それでは、どのようにしてあなたの「情熱」を日本流の「誠実さ」に翻訳すればいいのでしょうか。具体的ですぐに使える3つのステップを提案します。
まず、自分が「普通」だと思う声の大きさを、意識的に7割程度に抑えてみてください。
【上司に意見を言う時の発声】
(NG)「それは違います!(語尾が鋭い)」
(OK)「それは、少し違うと思います(語尾を優しく、少し下げる)」
日本人は、本題に入る前に「クッション言葉」を挟むことで、衝撃を和らげます。これは相手に対する「今から言葉を届けますが、攻撃ではありませんよ」という合図になります。
具体的には、以下のフレーズを枕詞(まくらことば)として使いましょう。
特に否定的なことを言わなければならない時、ナイジェリア流のストレートな「No」は日本人の心を砕きます。
【依頼を断る時の会話例】
同僚: 「これ、今日中にやっといてくれる?」
(ナイジェリア流):「無理です!他の仕事があります!」
(日本流):「あいにくですが、今他の案件で立て込んでおりまして、少し難しいです。明日でもよろしいでしょうか?」
声のボリュームを下げると、「私の熱意が伝わらないのではないか?」と不安になるかもしれません。その不安を解消するのが「頷き(相槌)」です。
声で自分の存在を主張する代わりに、視覚的なアクションで「私はあなたの話を聞いています」「私はこのプロジェクトに真剣です」というサインを送ります。
日本人にとって、沈黙の中で深く頷く人は「非常に落ち着いていて、信頼できる人物」に見えます。あなたの溢れるエネルギーを、声から首の動きへと転換してみましょう。
ここでは、ナイジェリアの学習者が特によく直面する疑問に答えます。
A: 日本では逆です。「声が大きすぎる人」は、感情をコントロールできない未熟な人、あるいは中身がないのを声で隠している人、と疑われるリスクがあります。逆に、通る声で、かつ適切な音量で落ち着いて話す人は「内側に強い自信を秘めた人」として高く評価されます。
A: ナイジェリアでは相手の目をしっかり見ることが誠実さですが、日本では「じっと見つめ続ける」ことは、威圧や挑発と受け取られることがあります。
A: 日本のレストランでは、大声で叫ぶのではなく、手を挙げて軽く「すみません」と言うか、最近では呼び出しボタンを使います。もし店員が遠くにいる場合は、アイコンタクトを狙って軽く手を挙げるだけで十分です。
【NGパターン】
(店内に響き渡る声で)「Hey! Waiter! すみませーん!!!」
【OKパターン】
(近くに来た時に、普通の音量で)「すみません、注文いいですか?」
お疲れ様でした!この記事を通して、あなたの「熱意」をいかにして日本の社会に最適化するかを学んできました。
大切なのは、**「声の大きさは武器ではなく、楽器である」**と考えることです。場所が変われば、楽器のチューニングも変えなければなりません。あなたのエネルギッシュな魂はそのままでいいのです。ただ、その出力を少しだけ日本流に調整するだけで、驚くほど周囲の反応が変わるはずです。
あなたは、異なる文化の架け橋になれる存在です。ナイジェリアのパワフルさと、日本の調和の取れたコミュニケーション、その両方を使いこなせるようになった時、あなたは誰からも信頼される唯一無二の存在になれるはずです。
あなたの挑戦を、私たちはいつも応援しています。